医療法人財団順和会山王病院長、
国際医療福祉大学産婦人科統括教授
第4代日本産科婦人科学会理事長、
前東京大学医学部産婦人科主任教授
株式会社Tricools取締役(医療監修担当)藤井知行
知っておきたい
男性と女性の健康メカニズムの違い
人は誰でも健康でありたいと思いますよね。
そのためには、自分の健康がどのように維持されているかを知ることが大切です。
これまでの医学は、男女を区別せず、同じメカニズムで健康が維持されていると考えていました。そして、そのメカニズムの乱れが病気につながるとして、研究が進められ、医療が発展してきたのです。
しかし、本当にそれでよいのでしょうか。男性と女性の健康は、その維持メカニズムに違いはないのでしょうか。
2022年の男女別平均寿命の国際比較を見てみましょう。
日本は男女とも世界で最も寿命が長い国の1つです。
平均寿命は国によって様々ですが、不思議なことにどの国でも、女性が男性より長生きであることがわかります。
病気には男性、女性でかかりやすさに違いがあるものがあります。
急性心筋梗塞や肺がん、胃がん、食道がんなどは男性に多く、慢性関節リウマチや甲状腺疾患、骨粗しょう症、アルツハイマー病などは女性に多いことが知られています。
男性には、直ちに命にかかわる病気が多く、女性には生活の質にかかわる病気が多いことが知られています。
これまでお話ししたように、男性と女性は寿命が違いますし、かかりやすい病気も違います。どうして、そのようなことが起こるのでしょうか。
その因子として、思春期から閉経期まで女性に作用する女性ホルモン、エストロゲンが考えられています。女性の健康は、エストロゲンに支配されています。
女性に多い病気の一つである骨粗しょう症は閉経後に増加することも分かっています。
女性は、思春期から閉経期までの間、大量のエストロゲンが体中をめぐっており、毎月ごとの周期的な変化と、年齢による変化を有し、それによって、全身の臓器の機能が調節され、健康が維持されているのです。
つまり、女性の健康維持メカニズムは男性と大きく異なっており、それを理解しないで、女性の健康を保つことはできないということになります。
エストロゲンは女性の健康を支配していますので、そのライフステージごとのレベルの高低により、なりやすい病気が異なってきます。
思春期はエストロゲンの月ごとの周期が安定しないため、月経周期異常を起こしやすく、性成熟期では、卵巣からのエストロゲン分泌の不調により月経痛や月経前症候群などの体の不調が起こったりします。
またエストロゲンが病気の発症や進行に影響する子宮筋腫や子宮内膜症などが問題になります。やがて卵巣機能が衰えてくるとエストロゲン分泌が乱れるようになり、月経周期異常とともに、いわゆる更年期の自律神経失調症状やうつなどの精神神経症状に悩まさるようになります。
更年期が終わり、老年期になるとエストロゲンレベルが低くなったことによる尿失禁などの泌尿生殖器萎縮症状、高脂血症や動脈硬化、そして骨粗鬆症による脊柱後弯(腰がまがる)などが増えていくのです。
これまでお話ししたように、男性と女性は寿命が違いますし、かかりやすい病気も違います。どうして、そのようなことが起こるのでしょうか。
このように女性の健康は女性ホルモンであるエストロゲンに支配されています。女性の健康を維持するためには、エストロゲンの状態を把握し、もしそれが不調であるのなら、それを正常化することが大切です。
この医療に習熟しているのが産婦人科医です。
産婦人科というと、お産とか、生理とか、不妊症とか、子宮や卵巣の病気を扱う診療科だと皆さんは思っていないでしょうか。
女性医療として、思春期から老年期までの女性のライフステージごとに、全人的に女性の健康維持に貢献する学問になっています。
まとめ
産婦人科とは?
女性の生殖現象に関わる臓器、機能の、生理と病理を明らかにし、医療に役立てることを目的とする。
女性の医療として、女性特有の整理・病理の基本的理解のもとに、思春期から生殖期、妊娠期、老年期までの、女性の健康維持・増進・疾病の予防・治療などの諸問題を統合的・全人的に把握し、医療に役立てることを目的とする。