『産後ケア施設の選びの基準』
1. 日本ではワンオペ育児をしている家庭が増えています
・日本では、かつて、家庭の中におじいちゃん、おばあちゃんが一緒に暮らしていて、育児で困ったこと
があっても手伝ってもらったり、わからないことがあった時には教えてくれたり、みんなで子どもを
育てていました。
・戦後、核家族化が進み、今では単身世帯を除いた子どもがいる世帯の87%が核家族です。このため、
育児の負担は女性に委ねられることが多く、母子が周囲からの協力を得られず孤立した環境で、
いわゆるワンオペ育児家庭が多いのが現状です。
・そのため、疲れても休むことが出来なかったり、またおっぱいが足りているのか、どうして泣くのか
分からないのに誰にも相談できなかったり、不安な気持ちでいっぱいになっているお母さんが増えて
います。
・こうしたワンオペ育児家庭では、育児に関する情報をインターネットで得ることが多くなっています。
・しかしながらインターネット上の情報は不確かなものが多く、かえって母子の関係を不安定なものにし、
虐待の原因の1つになっているという懸念もあります。
・実際、近年、児童相談所への虐待件数が増加しています。
2. 産後ケアとは?
・育児は一朝一夕で出来るものではありません。お母さんは一人で、不安と慣れない育児による身体的・
精神的疲労を重ねています。
こうしたことにならないよう支援するのが出産施設の医療スタッフ、特に助産師さんです。
にもかかわらず、最近ではお産後の入院期間が短くなっており、多くの施設で、経腟分娩の場合で産後
4日間、帝王切開でも6日間で退院しており、十分なケアを受けずに退院するお母さんが増えています。
・そこで、彼女たちを取り巻く状況を改善するための方法として、産後ケアが考え出されました。
・『退院後、助産師さんや看護師さんが専門性を生かしたケアを継続して提供し、お母さんと赤ちゃんの
絆の形成を促進すること』
『周囲のサポートを受けて母親としての自信を持てるようにすること』
を目的としています。
・2021年には母子保健法が改正され、産後ケア事業は市町村の努力義務となっており、経済的な支援が
受けられる場合もあります。日本看護協会も、「母子のための地域包括ケア病棟」推進に向けた手引書を
作成し、妊娠・出産・産褥・育児と切れ目ない支援の実現を目指しています。
3. 産後ケアではどのようなサービスが受けられますか?
・日帰りサービスを提供している所もありますが、多くの施設では1週間程度までの滞在型サービスを主と
しています。
穏やかな環境で過ごせるよう、個室が提供されるのが基本です。
希望により夜間赤ちゃんを預かってくれる施設も多くあります。
食事もいわゆる病院食ではなく、一段上のレベルのものが提供されます。
またサービスも利用者のニーズに合わせ、育児技術の習得、休息、リフレッシュなど、さまざまに提供さ
れます。
入所時には、助産師とケアプランを一緒に作ります。
例えば、
「母乳の管理や育児など、どう新しい生活に慣れていきたいのか」、
「とにかく体を休めたいのか」、「不安な気持ちでいっぱいなのでメンタルケアを希望したいのか」、
「体力も回復させるためのエクササイズなどを希望したいのか」などについて、遠慮せずに
助産師に伝えましょう。
赤ちゃんの体重測定や授乳指導、沐浴も行われますし、多くの施設で夫が一緒に滞在することができ
ます。
4. 産後ケア施設を選ぶとき最も大事なことは何ですか?
・産後ケアは社会の注目や行政の支援もあって、多くの事業者が提供しています。
多くは医療施設が関連施設あるいはサービスとして提供していますが、まったく医療と関係のない事業者
が提供しているものもあります。
豪華な部屋、おしゃれな施設、風光明媚な環境、豪華な食事、エステティックやネイルサロン付きなど、
いろいろです。
・中でも、もっとも大切なことは、きちんとした助産師によるサービスが提供されているかどうかという
ことです。単に提携助産師が一人いるというだけでは、十分なケアを期待することは難しいでしょう。
・産後ケアの目的は、ケアをうけて母親としての自信を持つことなのですから、それができる施設を選ぶ
ことがもっとも大切です。
今回は、「産後ケア施設の選びの基準」でした。
現在、医療法人財団順和会山王病院長、国際医療福祉大学産婦人科統括教授、日本産科婦人科学会監事(前理事長)、現場医師として、女性診療、人財育成の最前線に立ち、また厚生労働省の各政策会議、日本学術会議、公的運営会議、学会等の公務に務め、赤ちゃん、お母さん、女性の健康と笑顔に資するべく、業務に取り組んでいます。尚、2020年まで東京大学医学部産婦人科教授として長年、診療、研究、教育を務めて来ました。