『鉄欠乏性貧血への対応』その1
1.貧血とは何ですか?
何らかの原因で、血液中の赤血球やヘモグロビン※ が少なくなった状態を「貧血」といいます。貧血は、ヘモグロビンの濃度で診断されます。成人では、非妊娠女性12g/dL未満、妊娠女性11g/dL未満、男性13g/dL未満の場合、貧血です。
※ ヘモグロビン=赤血球中の血色素、酸素を全身に運びます。
☞ まずは健康診断結果等で、ご自身の数値を確かめてみましょう。
2.貧血が多いのは、どのような人たちですか?
男女とも、高齢者で多いですが、女性の場合はそれ以上に成熟期(月経のある年齢)で多いです。その原因として考えられるのは、高齢者では、老化に伴う低栄養、いろいろな病気による服薬の増加による副作用としての消化管(胃や腸)出血などが考えられます。成熟期の女性では、月経、特に過多月経(月経の量が多い)による失血が原因として考えられます。
3.貧血の原因は何ですか?
貧血になるかならないかは、赤血球やヘモグロビンの産生量と消失量のバランスで決まります。つまり、産生量が減少するか消失量が増加するかして、消失量が産生量を上まると貧血になります。
産生量が減少するのは、
・鉄やビタミンB12などの栄養素が不足する場合
・赤血球産生場所である骨髄の病気で赤血球が作れなくなった場合
・赤血球の産生を促すホルモン(造血ホルモン)産生部位である腎臓の病気で
造血ホルモンが減少した場合
などです。
消失量が増えるのは、
・過多月経(月経量が多い)、過長月経(月経期間が長い)、お産、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、がんなどで、出血量が多くなった場合
・出血期間が長くなった場合
・病気や細菌感染、激しい運動などで赤血球が壊された場合
です。
貧血の中で最も頻度が高いのは、鉄の摂取不足や出血によるヘモグロビン中の鉄分の大量消失で起こる「鉄欠乏性貧血」です。
貧血の患者さんの、約70%が鉄欠乏性貧血です。
4.世界の中で日本の女性の鉄欠乏性貧血の頻度はどうなのですか?
米国や英国など欧米先進国では女性の鉄欠乏性貧血の頻度は5%前後です。
しかし、日本では月経のある年代で20%前後と非常に高く、開発途上国と同レベルです。また、貧血にはなっていなくても、体内の鉄の貯蔵量が減っている「鉄欠乏」の女性が40%近くいます。日本は、「貧血大国」なのです。
日本で貧血が多い理由として考えられるのは、
・菜食主義の増加、ダイエットの流行、
月経量をコントロールするための低用量ピルやホルモン薬の使用率の低さ
などが挙げられます。
実際、欧米アスリートの低用量ピルやホルモン薬の使用率は80%程度ありますが、日本では10%程度しかありません。
また、海外では国策として小麦粉などの主食に鉄を添加して貧血に備えている国もあります。
(続きは次回コラムで)
現在、医療法人財団順和会山王病院長、国際医療福祉大学産婦人科統括教授、日本産科婦人科学会監事(前理事長)、現場医師として、女性診療、人財育成の最前線に立ち、また厚生労働省の各政策会議、日本学術会議、公的運営会議、学会等の公務に務め、赤ちゃん、お母さん、女性の健康と笑顔に資するべく、業務に取り組んでいます。尚、2020年まで東京大学医学部産婦人科教授として長年、診療、研究、教育を務めて来ました。