『鉄欠乏性貧血への対応』その3
8.鉄欠乏性貧血の予防
体内の鉄が不足して起こる病気ですから、鉄の摂取を増やすことと鉄の消失を減らすことが大切です。鉄が多く含まれる食品は、レバー、牛肉、かつお、まぐろ、大豆、青菜、ヒジキなどが有名です。
なお、動物性の鉄は、ヘム鉄と呼ばれる分子の形をとっており、植物性の鉄より、体に吸収されやすいという性質があります。
☞ 鉄の消失は、ほとんどが出血で起こります。月経以外の出血を伴う病気がある方はその治療が必要ですし、月経 量が多い、あるいは長い方は、産婦人科医と相談し、ピルなどで月経をコントロールするようにしましょう。
9.鉄欠乏性貧血の治療
鉄欠乏性貧血は、薬剤で鉄を補充して治療します。
・鉄を補充する薬には飲み薬と静脈注射(点滴を含む)薬があります。
治療の緊急度や副作用などを考えて、どちらにするか決めます。
同時に、鉄が消失する要因があれば、その治療をします。
・過多月経を起こす子宮筋腫などの子宮の病気や消化管出血を起こす病気があれば、手術や薬による治療を行います。
鉄欠乏性貧血の治療で大切なことは、貧血が治った(ヘモグロビン濃度が回復した)段階で治療を終了せず、貯蔵鉄(フェリチン)が回復するまで鉄の補充を続けることです。ヘモグロビンを財布の中の現金に、貯蔵鉄のフェリチンを貯金に例えると分かりやすいです。
財布の中の現金が回復していても、貯金がなければ、すぐにまた貧乏になってしまいます。同じように、ヘモグロビンが回復していてもフェリチンが回復していなければ、すぐにまた貧血になってしまうのです。
☞ 医師と相談して、最も適した貧血の治療をしましょう。
(『鉄欠乏性貧血への対応』は今回で終了です。)
現在、医療法人財団順和会山王病院長、国際医療福祉大学産婦人科統括教授、日本産科婦人科学会監事(前理事長)、現場医師として、女性診療、人財育成の最前線に立ち、また厚生労働省の各政策会議、日本学術会議、公的運営会議、学会等の公務に務め、赤ちゃん、お母さん、女性の健康と笑顔に資するべく、業務に取り組んでいます。尚、2020年まで東京大学医学部産婦人科教授として長年、診療、研究、教育を務めて来ました。