『鉄欠乏性貧血への対応』その2
5.女性のライフステージと貧血
女性は月経による出血があるため、男性より貧血になりやすくなっています。しかし、その要因はライフステージごとに異なっています。
思春期では、ダイエットや偏食による鉄の摂取不足、身体の成長に伴う鉄の消費量の増加などが要因となります。
成熟期の要因としては、過多月経を引き起こす子宮の病気や消化管潰瘍からの出血など、更年期以降は、月経の乱れに伴う出血量の増加、がんなどの病気、高齢になっての多剤服用の副作用としての消化管出血などが挙げられます。
また、妊娠~授乳期では、胎盤や母乳を通しての赤ちゃんへの鉄の移行、お産の出血、妊娠に伴う血液量増加による希釈などが要因となります。
6.体内での鉄の分布と役割
鉄は体内に3-5g存在し、そのうち約60-70%が赤血球中にヘモグロビン鉄として存在しています。赤血球の酸素運搬に欠かせない元素です。
また、約30%が貯蔵鉄としてフェリチンやヘモジデリンの形で肝臓やマクロファージなどの細胞で貯蔵されています。
しかし、微量ではあっても、細胞内小器官のミトコンドリア内に存在し、細胞呼吸、エネルギー産生のために非常に重要ですし、組織中の酵素の働きにも大切です。
また、筋肉のミオグロビンにも存在し、筋肉の機能に重要な働きをしています。
鉄は血清中で、トランスフェリンというたんぱく質に結合して運ばれます。
7.鉄欠乏性貧血の症状
鉄欠乏性貧血では、赤血球とそれに含まれるヘモグロビンが不足しているため、血液の酸素運搬能力が落ちています。そのため、動悸、息切れ、顔面蒼白、易疲労感といった症状がでます。
そのほか、鉄は体のいろいろな所で重要な働きをしていますので、鉄欠乏により、爪の変形、むずむず脚症候群(じっと座ったり横になったりすると、主に脚がむずむずする、ぴりぴりするなどの不快感が現れる)、のどの違和感、嚥下障害や異食症などの多彩な症状が出ることがあります。
異食症は、氷をかじりたくなるという症状で有名ですが、中には壁土を食べたくなるとか、排気ガスのにおいをかぎたくなるといった症状が出ることもあります。妊娠後期の貧血では、早産や低出生体重児(生まれた時の赤ちゃんが小さい)が増えると言われています。
(続きは次回コラムで)
現在、医療法人財団順和会山王病院長、国際医療福祉大学産婦人科統括教授、日本産科婦人科学会監事(前理事長)、現場医師として、女性診療、人財育成の最前線に立ち、また厚生労働省の各政策会議、日本学術会議、公的運営会議、学会等の公務に務め、赤ちゃん、お母さん、女性の健康と笑顔に資するべく、業務に取り組んでいます。尚、2020年まで東京大学医学部産婦人科教授として長年、診療、研究、教育を務めて来ました。